第3回 定期総会

開催日 2011年6月26日(日)
会場 太宰府館「まほろばホール」
太宰府市宰府3-2-3
来場者数 55名
講演 太田 五雄氏(日本山岳会所属)
「世界自然遺産と屋久島の環境について」

議事の概略

6月26日(日)13時から、太宰府市の太宰府天満宮にほど近い「太宰府館」3階の「まほろばホール」で開催されました。
司会を運営委員の松大路秀一氏が担当、議長を福岡県勤労者山岳連盟の平田真介氏にお願いして議事に入りました。
「質疑応答」では、「活動報告」の中で、「山の水質検査」について、検査の内容に対する質問がありましたが、後日、検査を主導する福岡県山岳連盟の担当者から連絡させると回答しました。
また、「規約改正」について、新たに「2年間の会費納入なき場合は、退会したものとみなす。」との条文追加の改正案に対し、「単に2年間だけでは、その始期、終期が不明確なので、会計年度に合わせるのはどうか?」との提案があり、そのように修正する旨回答しました。他には特に異論もなく、拍手をもって承認されました。
引き続き、宝満山キャンプ場のバイオトイレの使用状況について、伊藤博紀委員から、利用者のマナーが大幅に改善されてきたとの報告がありました。ただ、根本的な問題として、「山岳でのバイオトイレ」の運用成功の可否については、以前からことあるごとに触れられていますが、熱源、動力などのエルネギーを如何にして確保できるかにかかっている!建てた後が問題なんだ!と強調されていました。

「トイレ協議会通信 第7号」より

講演内容

先日小笠原が世界自然遺産になりました。そして平泉が文化遺産に。個人的には、そうなったことを喜ばない方が良いと思います。地元では沸上がっている状況ですが、特に世界自然遺産に限れば、世界遺産にはしない方がいい。世界自然遺産となったことを知ったが故に、観光の地域となってしまい、沢山の観光会社が、それまでその地に何の関心も持たなかった客まで募集して次々に繰り出してきた。更に、これに輪をかけるようにメディアが沢山の報道をしたんで、「じゃあ、行ってみたいなあ!」という程度の、山などの知識のまったくないお客さんが増えているんです。そこに大きな問題があります。
エクアドルにガラパゴスっていう、世界自然遺産第一号の地域があります。小さな島々で成り立っています。ここに、ゾウガメという陸亀がいますが、それぞれの島で形が違うんです。そういう所に、自然遺産指定直後から、観光客を中心に入島者が押し寄せ、それらの人を目当てに本土から2万人!のいわゆる金貸し業者もやってきました。入植者はいろんな家畜を持ち込みました。それらの家畜類が世界自然遺産指定の理由の一つでもある、非常に珍しい貴重な植物の中に入り、その踏圧、食害により、生態系を壊してしまい、一時危機遺産となってしまったのです。
そこで、エクアドル政府は何をしたか?いわゆる入島者、よそから来た観光業を目的とする者達を全部締め出した。連れてきた家畜類も全て整理するなど、国を挙げて改善に努めました。その結果、昨年7月、再度世界自然遺産に復帰しています。観光と世界遺産との相反する事態が問題なのです。
まさに今、屋久島はそういう危機を迎えています。
(ここで太田さんは自作のDVDにより、屋久島の自然を動植物を中心に約20分間説明をされました。白板に貼ってある屋久島の地図を示しながら)屋久島は、先ほども副島君から話があったように、その当時の地図には何の記号もなく、山の名も違うのが多かった。そういうこともあって、10年かけて調査し、昭和47年初版の地図を出しました。昔は猟師が鹿猟に山に入り、地名などを伝承していましたが、猟が禁止された今では、不明となった地名も多く、遠く藩政時代の古地図、文献などを調べ上げ、明らかなものは藩政時代の名称に戻しております。プライオリティーを大事にしようということです。
私が屋久島に移り住んだのは平成7年です。何故島に住むことにしたのかというと、それまでは結局屋久島をよそものとして外からしか見ていなかったと気づいたからです。本質的なもの、内面的なものを見るには、やはり住んでみなきゃ分からんということで、住み着くことにしたのです。
現在、日本山岳会の自然保護委員会、福岡支部が中心になり取り組んでいますが、世界遺産にしたことによる弊害というのはものすごく山積みしています。
一つは、縄文杉のコースで、最初に作った道は人がやっと通れる位の約80cm幅しかない。ところが、多くの人の目的は縄文杉を見に行くことなので、見れば往路を引き返す。つまり、往復コースなんです。すれ違いが発生すると、一人が道から外れる。更に問題なのは、食事をとる場所がない。ツアーの場合に限ったことではないが、殆どのタイムスケジュールは、昼を到着予定にしているので、昼食はこのあたりで、ということになるが、場所がないので森に入り食事をとる。相次ぐ踏圧により土は粉砕されヘドロ化していく。縄文杉の場合、新聞社が写真を撮るために前面の樹を伐採してしまった。何せ大雨の島ですから、地層はかろうじて腐葉土が乗ってる程度に非常に薄く、すぐ岩です。伐採により、表土は全部流され、木の根っこがむき出しになってしまった。これはいかん!ということで、根っこの間に屋久杉の屑を埋めて、1キロ運動とかいって海砂を担ぎ上げて形なりに土止めをしました。私も立ち会ったんですが、以後樹に勢いがない。掘ってみたら、土がヘドロ化しており腐臭さえしたので、すぐ腐葉土、バーミキュライト、活性炭を入れてやり直したら、3年後発根していました。林野庁が土を踏まないようにと、現在あるデッキ様の物を作ったが、かえって景観を悪化させてしまった。
次にトイレの問題ですね。トイレについては、バイオトイレ、EM菌を使ったり、牡蠣殻を使ったり、乳酸菌を使ったバイオにしたり、オガクズにしたり、自然浄化型(TSS方式)など比較検討してみました。
エネルギーが要るかどうか、経済的な問題、メンテナンスの問題なども検討した結果、TSS方式が良いということで、淀川小屋に作ろうとしたが、ある程度の広さの土地が必要になるうえ、立木の伐採も必要となることを理由に、林野庁は許可せず実現しなかった。現在、去年から環境省が新高塚小屋に2室のトイレを試験的に作っています。来月(7月?)にも完成するんじゃないでしょうか。結局、山岳地帯でのトイレには、動力は初めから考えない方が良いのかもしれません。
ところで、屋久島はどうなっていくのか?現時点では年間40万人の人が押し寄せている。観光協会は、60万人まで良いと言ってます。一昔前まで、経済的にも虐げられ、屋久島出身とは口に出せない時代が長かったが、「オレの島は世界遺産になった!」何の努力もせず観光客があふれんばかりにやってくる。一台も無かった大型の観光バスが港にズラリ並んで客を待ちます。山の荒れ、水質の汚染など環境の保護のためにはと、大幅な入島制限、入島料の徴収など、各町議会に議案提出の動きが!と、一時新聞の紙面を賑わせましたが、いずれの町議会でも全て利益代表の議員たちにより否決されました。
世界遺産になって良かった!ということは一つもありません!小笠原には一寸頑張ってもらい、知床は300人に制限しました。国は動きません!自分たちで動かなければ何も変わりません。トイレの啓蒙活動も同じです。トイレ協議会の皆さんにはぜひ頑張っていただきたいものです。

「トイレ協議会通信 第7号」より